人は不可逆的な時空の流れの中に生きている。整然と、まるで永遠に存在するかのように現代に残る絵画も一方向に流れる時間のある瞬間において生まれた。写真から派生した絵画は、写真が備えていた瞬間を切り取るという目的同様に、その時代の情報から切り離すことができない。
生物が進化の過程を遺伝子内部に塩基のコードとして書き込むように、画家は写真機が取り込むことのできる光の像を越えた時空の片鱗を一枚の絵に遺す。画家はその絵がもつ殆ど全ての情報を授けた母であり、歴史が画家を生んだ。言い換えれば、作品には意図せずとも介入の避けられない歴史と蜜月な作家の知覚の情報が刻まれている。とりわけ作家は作家であると同時に鑑賞者でもある。全ての創造は過去のアーカイブの継承である。
より純粋でニュートラルな状態で作品を鑑賞したい、だからあえて予備知識のないままミュージアムに足を運ぶのだという人がよくいる。その行為自体は何ら咎められるものではないにしろ、最も純粋な状態でその作品を鑑賞できるのは、即ちそこに込められた情報を過不足なく共有できるのはこの情報を与えた製作者本人を除いて他にない。そして現代に生きる私達にとっては知識という形で情報を獲得し、彼らとは物理的に異なった時間軸上に生きているために生じるその知覚の溝を埋めることで作品に接近することこそが、かろうじての純粋な鑑賞と言えるのではないだろうか。
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東京に帰ってから二ヶ月が経った。
複数の事情が重なって春になるまでは日本にいなければならない。
私の友人であり同時にアメリカにおけるメンターでもあるチャドはPayPalのファウンダーの一人であるPeter Thielをクライアントに持つ投資会社のアナリストで、前歴はフォトグラファーとしてインターネット業界に関わった後ハーバードの大学院でファイナンスを学びVCやPrivate Equity業界に転職した。
彼がWestfieldのカフェで話してくれた感動的なアドバイスを忘れないように書いておこうと思う。
「ビジネスを成功させるには、次の3つの鉄則がある。
“Be first、Be smarter、Cheat”
カズは最初の2つは大丈夫だから、あとは最後だね。この辺は中国人がとてもうまい。僕も前の会社にいたときは会社には内緒でインターネットビジネスをやっていたんだ。
僕の祖母は一昔前にすごく成功した経営者で、Landonっていうファミリーネームは祖母の家系のものなんだけど、彼女が僕によく言っていた言葉がある。どんなものでも売れるんだって。
これは僕がフォトグラファーをやってたときに関わっていたwebサービスで、観光業者向けにハワイとかリゾート地の写真や動画を販売するサイトなんだけど、このハリネズミの動画ひどいだろ?これ僕が撮ったんだけど、本当にひどいよね。でも売れるんだ。
このサイトは最初の年は購入してくれたユーザーは0で、次の年は10人だった。その次の年は50人くらいだった。
もうやめようってことにもなってたんだけど、徐々に写真や動画の素材も増えてきて、5年目あたりで一気にユーザーが数千人に増えて売り上げもそれなりの規模になって、最近他の会社に売却したんだよ。どんなサービスも売れるまでには5年くらいは必ずかかる。
これ見て、HDの最高画質のだと100ドル以上もして誰が買うのかって思うよね。でもほら、これを見ると12人も買ってる。
こんな動画でも誰かにとっては重要で、買う人がいるんだよ。」
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アメリカという国はすでに一国を超えた超国家であり、もはやアメリカ人の国ではない。世界で最も優秀な人材が集まり人類が抱える最重要かつ最先端の問題に取り組んでいる特殊な地域である。アメリカの諸大学以上に魅力的且つブランド力のある研究機関が世界のどこかに突如として現れない限り、世界中の最も優秀でビジョナリーな人々はアメリカに集まり続ける。その限りにおいてアメリカは世界の覇権を失うことはない。
歴史を辿ればアメリカは卓越したメディア戦略を用いて今ほどのプレゼンスを獲得してきた。日本では太平洋戦争終了後にアメリカの統治下におかれたが、このとき日本国民をアメリカ文化に馴染ませるためにアメリカンホームドラマや映画がテレビで積極的に流された。こうしてパンやコカコーラやアメリカのファッションなどが容易に浸透し、事実上の半植民地的な風土が出来上がる。1980年から90年にかけて、共産主義地域であったモスクワを含む世界中の文化圏に流通した衛星ミュージックチャンネルMTVはアメリカ文化の世界的プロモーターとなり、これと期を同じくしてマクドナルドは世界に店舗を広げている。文化経済一体型グローバリズムの最たる事例である。
そして今、このグローバリゼーション戦略を全く同様な形で実践しているのが韓国である。
古き良き韓国への共感を呼び起こす冬のソナタに始まり、東南アジア諸国を中心にファンの拡大を続ける少女時代らのK-POPアイドルに至る一連の国際的メディア戦略は、97年に事実上独占禁止法が解禁され力を蓄えた三星電子、LG、現代自動車製品のプロモーターとして機能している。主要輸出先である中国、香港、シンガポールをはじめ、マーケットが拡大し続けるインドネシア、フィリピンなどのASEAN地域ではTOYOTAやHONDAのSONYのロゴはHYUNDAIやKIAやSAMSUNG,LGにまるでオセロのごとく急速に塗り替えられつつある。
2020年にアジア市場(ASEAN+日本+中国+韓国+インド)は16兆ドルの消費額に達しアメリカ、EUを抜いて世界一になると言われている。このアジア市場を制する者が世界をリードするならば、現在着実にその地盤を固めつつあるのが韓国であり、その延長線上には見かけ上韓国が世界のトップに跳躍する像が結ばれる。
なぜ見かけ上なのか。
1997年のアジア通貨危機でデフォルト寸前の状態にまで追い込まれた韓国は、IMFの経済介入を受け入れ、財閥の解体政策とともに、翌年、外国人による国内株式投資および債券投資への制限を撤廃し、外国人による敵対的M&Aを許可する。その結果、三星電子、現代自動車の外国人保有率は50%を超え、韓国有価証券取引市場全体での外国人保有率は2004年には42%に達した。韓国最大の銀行である国民銀行の筆頭株主は、Bank
of New Yorkである。
つまり韓国マーケットの主要な大株主は非韓国である。三星も現代も自力で経営をコントロールする権利をすでに手放している。
また、GDPの80%以上を貿易に依存する韓国の最大の顧客はアメリカである。
一方、50年前に時計の針を戻すと、この韓国の状況は2000年初頭のバブル崩壊後にアメリカからの関心を失うまでの間の日本の状況に似ている。
戦後の高度成長期に至る過程で、アメリカから総額18億ドルのガリオア・エロア資金援助を受けて復興開発が促進され、1ドル360円の固定相場制のもと輸出を伸ばし経済復興を遂げた。日本は地理的にアジア太平洋地域における拠点となり得たので、アメリカにとっては事実上の植民地として支配権を握ることが即ち太平洋経済圏での力を掌握することに結びついた。日本にとっては日米安保による軍事的な依存状態があったし、なによりアメリカに追従することが復興への近道だった。
そして社会学者エズラ・ヴォーゲルが著書『ジャパンアズナンバーワン』を出す頃、日本は少なくとも表面上は世界のトップに躍り出たかに見えた。
確かに日本の自動車や家電製品は売れたが、軍事的、経済的にアメリカに依存し、コントロールされる体質は変わらない。
アメリカはすでに1兆ドルを超えるアメリカ国債を日銀に買わせている。これは輸出企業がアメリカにものを売り、稼いだドルの最終的な行き先であり、言い換えれば日本国民はこれだけの資産を現実的には返らないアメリカの信用商品に奉納金のような形で積み立て続けてきたとも言える。
正義の国としてしばしばプロモーションされるアメリカとは日本にとって何なのか。主権の確保と繁栄がカードの表と裏の関係にあるとき、いかなる選択肢をとるべきなのか。
移動が容易になり、万人が自己相似的にシステムに組み込まれているこの世界では誰もが無関係ではいられない。
これらの問いはアメリカが没落し、持つ者がますます富を集める現在の金融資本主義システムが終わらない限り付き纏い続けるだろう。
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銀行口座(Business Account)の開設が取得したTaxIDを使って意外にすんなりできそうなので、銀行でもらったパンフレットを読み様々な処理にかかる手数料に関して勉強した。
どうすればそれらのFeesを減らせるかという観点からまとめている。
ちなみに開設した支店はMarket Street沿いのChaseだが、ざっと調べた限り手数料ではBank Of Americaもほぼ変わらないという印象である。
またフランスでソシエテジェネラルの口座を使っていた経験から言えば、チェックの仕組みをもつ西欧の銀行の手数料システムはほぼ共通化されていると思われるのでアメリカ以外の国で口座を開設する際にも参考になるかもしれない。
ChaseはJPモルガン・チェイスアンドカンパニーの傘下にある銀行だが、JPモルガン・チェイス・バンクは2011年にバンク・オブ・アメリカを押さえ総資産で米国最大となった。
CitiBankという選択肢もあり、世界の多くの主要都市に支店があること、ドル送金が手軽にできるというメリットがあるが、
送金については銀行間取引よりもPayPalを経由する方が得策なので、米国内でのサービスを追求するならChaseということになるだろう。
以下まとめ。
1. 月々$15のService Fee
・口座内の平均金額を$7,500以上に保つ
・紐づいたクレジットカードで$1,000以上使う
・$50のqualifying checking account feeを払っている
・紐づいた個人口座がqualifiedである
– $7500以上常に入れておくのが確実
2. 超過引き落としが起こった場合のOverdraft Fees
・十分な金額を入れておく以外にない
もしこのFeeが発生すると、件数ごとに$34のInsufficient Funds Fee,$15のExtended Overdraft Feeなどそれなりに徴収されるので気をつけなければいかない
3.ATM,DEBITカード使用時に発生するFees
・基本的にChase以外のATM等を使うときに発生(ATM$2、Debit引き出し3%か$5の多い方)
・海外で引き出すと$5、通貨変換に3%
4.その他のFee
・預金される予定の取り引きが失敗(支払い側が残高不足など)した場合に$12
・チェックでの支払い取り消し処理$30
・200トランザクションを超えると1トランザクションごとに$0.4
・最初の$7500以外の追加デポジットに$1000あたり$1または$1.5
5. 送金
・米国の他の銀行からの転送入金は$15
・米国の他の銀行への転送は$30または$25
・他国の銀行とのやり取りは$45または$40
6. 特殊な処理
・口座への法的な措置への対応や寄付金など
7. ONLINE BANKING
・チェックごとに$14.99など
*Overdraft protection
Overdraft protectionを設定しておくと、チェックの預金額が足りないときに$10のプロテクション手数料が発生し、通常の預金から支払いを行ってくれる。
Chase.comのCustomer Centerから設定できる。
*Free Account Alerts
様々なFee発生が起こりうる場面でアラートしてくれる無料サービス。
Chase.com/freealertsで設定できる。
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今月はロサンゼルスにあるスタートアップハウスに籠ってプログラムを書いている。オンラインスポーツネットワークのスタートアップを経営するジョーダンが、親戚が所有する別荘を最大十名程度が寝泊まりしながら作業ができるように開放しているもので、オフィスはプールやバスケットボールのコートがある庭の一角を占めるガレージを改造した部屋から1分足らずで行き来出来る場所にある。(それにしてもアメリカのスタートアップ関係者は本当にガレージが好きである)ロサンゼルスといってもワーナーが近くにある、かなり外れたところにあるので車を使わない限りどこにも行くところがない。サンフランシスコでは毎晩のようにスタートアップ関連イベントかまたはサルサに通っていたので、生活はがらりと変わった。来月は再びサンフランシスコに戻る。
日本のメディアにはセレブリティという概念がないと思う。むしろ格差を隠蔽して総中流を演出するのが日本のメディアの目的の一つだという指摘もある。例えば国内でも有数の俳優が街中の庶民的な店で飯を食い、上手そうな演技をする。たとえ本当に上手くとも、そこに据えられた意味は、私と君達は一緒だというメッセージである。
2000年初頭のITバブルの頃、初めてメディアの中にセレブリティが登場する。つまり大衆とは異質な存在であることを公に主張する者が現れる。新種の存在が現れるときには必ず象徴というものが必要で、六本木ヒルズはその役割を果たした。
要するに日本におけるITバブルの終焉とは、メディアの中でのセレブリティという存在を改めて否定し、高度成長期の旧来の価値観に揺り戻す儀式となった。運動会で全員手をつないで一斉にゴールをするという話があったが(想像しただけで気分が悪くなりそうだ)、皆で一斉に幸せになるというコンセンサスに希望を持てないのは、それが既に嘘であることに皆気づいているからだろう。ヒルズがITバブルの頃の新種のセレブリティを象徴したように、世代交代による新陳代謝を繰り返しながらいつの時代にもメディアに現れ続け、スーパーマーケットのゴシップ紙に顔が並ぶハリウッドのセレブのような存在は、たとえ世界が狂い始めようともこの国には新しい成功がどこかにあるということの象徴としてあり続けている。
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“肥り過ぎて没落した国家”と言われる日が来るのではないかとも言われるアメリカ社会、見渡す限り肥満体ばかりである。
他の地域はましと聞くがSFベイエリアだけがこうなのではないと思う。食文化が粗末なアメリカで何故ここまで肥満が増えるのか、原因は要するに手持ち無沙汰だから、つまりこの国が物質的には豊かでありながら文化的には貧しいという本質的に悲しい性質を抱えていることに依るのではないだろうか。
話は変わって高度成長期と現代社会を比較してみると、クリエイタークラスが現代社会に特に適応性が高いことの合理的な説明ができる。まず高度成長期は大規模開発が産業を牽引するので、必然的に大規模な組織が活躍する。大規模な組織というのはマクドナルドの店員を束ねる店長を束ねるマネージャーを束ねるゼネラルマネージャーを…といったピラミッド構造をとるのが効率的だったので、店長からゼネラルマネージャーまでの階層、つまり実際にハンバーガーを作る専門的知識がほとんど必要ない人達の需要が社会全体で見ると増えるということになる。いわゆる中間管理職である。
(現実に現場の店員もハンバーガー製造マニュアルに従って作っているだけなので専門的な知識はほとんど必要ないが、イメージしやすいモデルとして)
そしてやがて高度成長期は終わる。このとき残された資産として特に重要なのはインフラよりもむしろ生産のための生産財である。つまり飛行機そのものよりも飛行機を作る技術とインフラである。なぜなら大規模開発が一通り進むと、より細分化された需要を満たすための産業が発達するので、こうした生産のための生産財を使って新しい価値を生み出す小回りの効くスモールプレイヤーが活躍するための土壌がここで整備されたことになるからである。そうしてLLCや数あるインターネットショップのような産業が発達する。
これまで最大公約数的に人々の需要を見たしてきた大規模な組織は、こうした細かな需要を的確に捉えていくサービスに勝つことができない。かくして社会はスモールプレイヤーの時代となった。そしてスモールプレイヤーにとって中間管理職はあまり必要ではない。今大企業で大規模なリストラや経営悪化が起こっているのはこうした時代の必然である。そして相対的に必要とされる人材の多くを占めるようになるのがコンピュータ、会計、物質化学、バイオテクノロジー、グラフィックデザイン、メカトロニクス、ジャーナリズム、自然エネルギー..のような専門分野に精通し、直接的に価値を生み出すことのできるクリエイタークラスである。彼らは組織ではなくプロジェクトを中心にして活動する。このとき組織の形態としてより理に適うのは従来のピラミッド型ではなくクラウド(雲)型である。
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「会社設立の基礎知識」
・取締役は株式保有者の人数に応じる。
3名以上保有の場合最低3名必要。
2名なら2名必要。
1名なら1名で可能。
・雇用者番号申請
個人でいうSocial Security Numberのような一社ごとに固有のナンバー
州に登録後、政府に登録
・法人登記簿コーポレートキットの作成
基本定款、株券発行、会社印など
・法人口座の開設
これには連邦番号FEINが必要
個人口座とは分ける
・ビジネスライセンスの取得
雇用者番号とは別。オフィスのある市で取得。費用は市により異なる
・ まず会社を設立してからVisa取得という手順になるのが通常の段取り。
「投資ビザ E2」
・十分な初期投資金
$100,000くらいあると良い
・オフィスを構えていること
・質の高い現実的なビジネスプラン
・申請方法
USCISにてステータス変更として申請
「H1-Bビザ」
特殊技能保持者。
在米企業での就業が決まっていることが条件。それ以外は大したことない。
申請時期は春、65000人まで。働けるのは取得後10月から。
「デラウェア州での設立」
・ネバダ州とよく比較される。
ネバダ州は取締役や役員のプロテクションが厚く、デラウェアは株主の権利保護に厚い。資金集めにはデラウェアが有利だと思われる。
・デラウェア州以外での利益以外には課税されない。
・毎年度特許経営税のみ課される
・設立まで最低1ヶ月はかかる
・アメリカに住む代理人が必要(設立エージェントに委託する場合サービスにインクルードされているのが普通)
・日本で法人として活動するには日本でも営業所登録をしなくてはならない。
・デラウェアで本社を登記した後で、日本に作るのは支社ではなく子会社の方がいいのは、決算処理の時に本社と支社を合わせて計算してから支社分を分けるという手間と費用がかかるから。
・日米租税条約により税金の二重取りはない
「デラウェア州で設立した会社の維持」
・年次報告
毎年3/1まで。$50支払い。遅延ペナルティあり
・州税(フランチャイズ税)
(1)授権資本株式数3000株以下なら$35。5000株以下なら$75。10000株以下なら$150。それ以上なら10000株増えるごとに$150追加。
または(2)株価×$350。
(1)(2)で安い方。
・州税(所得税)
デラウェア州内での事業活動に対し8.7%
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先月台北にいたときには約1年ぶりにゴルフをして、改めて奇異なスポーツだなと思ったのと同時に、アングロサクソン的だとも感じた。クラブに球を当てるときの初動が全てで、後は飛んでいく球に委ねられる。米の栽培や茶のようにプロセスに手を尽くす文化をもった日本人にはこういうスポーツはスポーツとして成立させられなかったはずである。
日本には本当に何でもある。何でもあるというのは、必要なものが全て揃っているというよりもごく稀にしか必要とされないものですら流通していて、割と簡単に手に入るというニュアンスに近い。ここアメリカではあれば便利だがなくてもどうにかなるものは多くないし、誰が買うのか全く想像がつかないようなものはあまり売っていない。
何でもあるということは本来ポジティブな面であるはずなのだが、しかしそれらを生産するのに使われる膨大な人的資源を考えれば実際にはデメリットとなっている。明らかに非効率だからである。日本人の勤勉さはかなりの部分が余剰的な価値単価の低いものに使われ、それはゴルフで言うところの初動がいたるところで誤っているからに他ならない。
これを正す最善の手段は学術的な水準を上げる以外にはないだろう。
9月の第二週にサンフランシスコ市内で行われた電子音楽祭では、いい意味でなく現代芸術化するシーンの一端を見たような感慨を受けた。
少なくとも以前はcomposeとはパズルのピースを一片の狂いもなく埋めるパーフェクトデザインを指していた。今はcomposeとdesign(DJ)の境界が曖昧である。複雑さと微細さが人間の考案する組織-システム-に追いつかなくなったために、そして記録と再生が遥かに容易になったために、かつて主流であった”完成”という態度を暫定的にでも諦めてやり過ごしている。抽象絵画の黎明期にはサロンでは常識的な態度であるFiniに対立した作家が新しい時代の勃興を勝ち取っているが、根本的に視覚芸術と原理が異なる音響芸術との比較はできない。レヴィ=ストロースの言葉を借りれば「栽培された思考」であるところのcomposeと「野生の思考」であるdesign、要はブリコラージュのような方法こそが主流になっていくのであろうか。
そういうわけで、こうした時代にあっては、構造のための理論的な支柱がないがゆえに必然的に見堪えのあるところは音の生成の過程となる。その意味で際立っていたのはJemes Feiだった。彼は台湾出身である。 現代的な楽器のインターフェイスはしばしば、アウトプットと身体性との距離が大きいのでコントロールがより難しい。そしてコントロールを諦めたことが露呈したその瞬間、興が冷めるわけである。身体性から切り離されるほどに、そして情報エレクトロニクスの技術が進んだ結果考慮すべき要素が次第に複雑かつ微細になるほどに、音は人間のコントロール下から当然離れていく。Jhon CageのChance Operationという概念はまさにこのコントロール不能となりゆく傾向に対し、それでも人間はコントロールしているのだと言い張るアカデミックな権威の皮を借りた正当化を許されようとする諦めに他ならない。 こうした一時しのぎを通過しながら、歴史は次なる概念を導入する必要に迫られる。
近年の傾向を集約して延長すれば和声と旋律が融解し音程感から自由になった「ビート」のようなものに集約されていくのだろうか。だとしたら、あまりに退屈である。
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May_Roma @May_Roma
私がなぜ「若者は海外に出ろ」「若者はノマドになれ」と煽っている識者やジャーナリストに怒っているか?それは「夢を売る詐欺」だからです。人生を狂わせる人が大勢いるかもしれないからです。嘘をつかないこと、人を不幸にしないこと、は、最低限守らなければいけないことで、当たり前のことです。
ノマドという言葉は映画史におけるヌーヴェルヴァーグのようなもので、ワークスタイルのある種の傾向を分析しラベリングするためにとってつけた言葉であると同時に、批評の力学をゴダールやトリュフォーやリヴェットのような若い作家に享受するためのひとつのスターシステムのようなものだと思っている。May_Roma女史が「煽っている」という識者やジャーナリストはそのシステムにおける批評家としての役割を演じており、事実彼ら批評家が発信したそのコンテクストの中で安藤美冬やphaといったスタープレイヤーが輩出された。
キャビンアテンダントのドラマが流行った時代はその志望者が増えたというデータがあるが、当然キャビンアテンダントには誰もがなれる訳ではないので、何年もかけて目指した挙げ句素質がなかったために諦めて他の職業に就き、端から見て人生を狂わされたという人もいるかもしれない。そのドラマに対し、キャビンアテンダントという職業を世の中により魅力的に広く伝えた仕事、とするか、「夢を売る詐欺」とするかは個人の主観に依るところなのでどちらが正しいとも言えない。
May_Roma @May_Roma
@hayamayuuそうです。大成功するのはごく少数で、凡人が大成功した人の真似をしても無理なんです。自分の身の丈や能力にあったことを、無理しない程度にやらないと、絶対に失敗します。
ただ、彼女の言う「失敗」と「大成功」が具体的に何を指しているのか分からないが、客観的にみて「失敗」したように見える当人の多くはそれを失敗だとは思っていないのではないだろうか。たしかに破産したり生きていく術を失ってしまった場合は失敗ということになるのかもしれないが、重要なのは失敗しないことではなくて、失敗するリスクを勘案してそうしているか、である。
社会に必要なもののうち情報化できるものの割合が多くなったので、仕事が個人に切り分けられていく傾向は不可避である。議論すべきなのはこの傾向を止めるか促すかではなく、それが自然な歴史の流れであるという前提の基、どのようにリトライ可能な社会を実現または維持していくか、ということだ。大局的な「成功」の定義はこの世代の人たちのそれから変わりつつあるので、たとえ識者やジャーナリストが勝手な成功イメージを添えて紹介していても新しい世代には知ったことではない。彼らは彼らのイメージを勝手に具体化しようとするだろう。
ノマド的な働き方に必要なのは、才能ではなく技能である。だから凡人であろうと天才であろうと問題ではない。むしろ、”誰でも生身の状態では凡人である”という事実を認識した上で、訓練を積み重ねていく以外にはない。
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今日9月3日、8:45の便で台北を発つ。今から5時間後には飛行機の中で、さらに3時間後には成田、その14時間後にシアトル、それからサンフランシスコということになる。
日本でハウスの人達にシャンパンとワイン(これは数年前のフランス時代に愛飲していたものを何年も開けずに保持していた文字通りとっておきの一品である)で送ってもらったのがつい先日のように、ここ数週間はあっと言う間に過ぎた。
台湾に最初に注目したのは数年前、私が今の仕事を始める頃、優れたWebデザインのサイトを漁っていた時である。それはひとつの歯科医院のサイトであったが、日本でなら病院のWebなどひとつ残らず版を押したような形式的で没個性的なデザインであろうところが、まるでフォトアルバムのように美しく動くそのサイトを見て、その国の創造性を感じとったわけである。
確かに首都台北といえど、一部の先端エリアを除いてはまだまだ発達の度合いは後進国の様相であるし、事実平均賃金も3万NTD、日本円にして10万円弱であるからあくまでポテンシャルであるものの、その芽はあちらこちらで散見される。
HTCは苦戦しているようだが、Marcos Zotesの3D投影や新都市Gardens By The Bay、または電通のiButterflyの情報すらコンビニでどこでも売っているメディアから気軽にアクセスできるほど世界情勢への感度が高いし、誰でもテレビをつければハリウッドや韓国や日本の文化を各国のチャンネルから吸収できる。通常自国チャンネルだけ流れてくる我が国とはこの辺りが決定的に異なる。
ちなみに台湾は日本のカルチャーをリスペクトしていると言うのがネット含む日本語メディアの通説だが、これはすでに一昔前の話で、今は韓国の方がクールだと言う人はざらにいるし、圧倒的に英語圏への憧れの方が高い。教育上、両親は台湾人であっても子供と英語でしか話さないなんて家庭は珍しくない。
なんでも柔軟に吸収し、尖ったものへの抑制が少ない寛容な国。日本も昔はこうだったのだろうか。横並びなムードをそろそろ脱しないと、置いて行かれてしまうよ。
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国際経済に関する弁明の中で通常あたりまえのようにそこにすでにあるものとして語られる現象 -資本主義、先進国の金融経済化、資源価格の高騰…- これらのものは当然ながらそれが生じるための力学をもっている。
その見過ごされがちなメカニズムについて、本書では対談という形式をとりながらも体系立てられた入門書として機能し得るほど精緻な歴史的洞察に基づいた議論が展開される。
そもそも資本主義とは何か。金融経済とは何か。バブルとは…
こうした問いに過不足ない論理による解説を試みるとともに、14年という資本主義の歴史上最長の低金利時代を経験した日本の先行性を好機と捉え、来るべき中国元自由化により国債発行での国費調達が限界となる前に低成長を前提とした新しい社会システムを構築せよと説く。
現実世界と離反し機能不全となった過去のモデルベースのマクロ経済学を脱する、現象を現象のままに留められない人へのこれからのマクロ経済学入門書である。
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最近ではノマドやノマドワークという言葉が一人歩きしながらテレビなどでも話題にされるらしいが、多くの人が誤解しているのは、この言葉が「遊牧民」という言葉から派生しているというものである。
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そもそもの問題点として日本人はたとえ高学歴層であっても、米国の上位大学で義務的に課される習慣つまり古典的なテキストをあたる習慣がある人種はかなり希少なので、文脈から切り離された言葉の印象を基点とした議論に陥りやすい傾向があると思われる。
経済学者の池田信夫氏も度々ツイッター等で経済学用語の誤用に怒りを示しているが、抽象概念は歴史を背負って存在する、言葉が文字通り進化したものである以上、その言葉を定義づけるテキストを読まなければ本当の意味で正確に理解することは難しい。
そして議論は言葉を通じてなされるのであるから、特に抽象度の高い概念を用いる程、そもそもの言葉の定義がずれていてはまともな議論になり得ない。
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まずノマドという言葉を議論の俎上に乗せる前に、これが「超ノマド」という概念に由来していることを理解している人がどれだけいるのだろうか。
超ノマドとはフランスの経済学者、思想家でありまた初代欧州復興開発銀行総裁を努めたジャック・アタリの著作『21世紀の歴史』で記述される、情報化社会以降の現代において携帯可能なデバイス(ノマドオブジェ)と専門的な技能を駆使して土地に依存しないフロー型の生活を行う者のことである。
超と言うからには超でない普通のノマドという概念からの派生であるが、この場合のノマドも遊牧民を指しているのではなく、情報化社会以前の社会で移動を伴う生活を行っていた人種のことを指し、これは12世紀に会計技術の発明によって金融業が栄えたジェノバをはじめとする「中心都市」とその中心都市を巡っての大局的な人の移動という文脈とともに説明される概念であり、当たり前だが広辞苑で引いても同じものは出てこない。
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重要なことはデジタル技術の発達により、我々が社会の中で生み出すもののうち情報化できるものの範囲が広がったので、情報を効率よく伝達できる移動性のツールを伴って「土地という制約からより自由になる人種」が増えるということである。
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従って、ノマドという言葉を単純に遊牧民的なイメージとして語るのは、言ってみれば「オタク」を〜オタクのオタクと同一概念で語ることと同様、言葉の進化のコンテクストを無視した行為であると言えるだろう。
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