アメリカという国はすでに一国を超えた超国家であり、もはやアメリカ人の国ではない。世界で最も優秀な人材が集まり人類が抱える最重要かつ最先端の問題に取り組んでいる特殊な地域である。アメリカの諸大学以上に魅力的且つブランド力のある研究機関が世界のどこかに突如として現れない限り、世界中の最も優秀でビジョナリーな人々はアメリカに集まり続ける。その限りにおいてアメリカは世界の覇権を失うことはない。
 
歴史を辿ればアメリカは卓越したメディア戦略を用いて今ほどのプレゼンスを獲得してきた。日本では太平洋戦争終了後にアメリカの統治下におかれたが、このとき日本国民をアメリカ文化に馴染ませるためにアメリカンホームドラマや映画がテレビで積極的に流された。こうしてパンやコカコーラやアメリカのファッションなどが容易に浸透し、事実上の半植民地的な風土が出来上がる。1980年から90年にかけて、共産主義地域であったモスクワを含む世界中の文化圏に流通した衛星ミュージックチャンネルMTVはアメリカ文化の世界的プロモーターとなり、これと期を同じくしてマクドナルドは世界に店舗を広げている。文化経済一体型グローバリズムの最たる事例である。
  そして今、このグローバリゼーション戦略を全く同様な形で実践しているのが韓国である。  
古き良き韓国への共感を呼び起こす冬のソナタに始まり、東南アジア諸国を中心にファンの拡大を続ける少女時代らのK-POPアイドルに至る一連の国際的メディア戦略は、97年に事実上独占禁止法が解禁され力を蓄えた三星電子、LG、現代自動車製品のプロモーターとして機能している。主要輸出先である中国、香港、シンガポールをはじめ、マーケットが拡大し続けるインドネシア、フィリピンなどのASEAN地域ではTOYOTAやHONDAのSONYのロゴはHYUNDAIやKIAやSAMSUNG,LGにまるでオセロのごとく急速に塗り替えられつつある。
 
2020年にアジア市場(ASEAN+日本+中国+韓国+インド)は16兆ドルの消費額に達しアメリカ、EUを抜いて世界一になると言われている。このアジア市場を制する者が世界をリードするならば、現在着実にその地盤を固めつつあるのが韓国であり、その延長線上には見かけ上韓国が世界のトップに跳躍する像が結ばれる。
  なぜ見かけ上なのか。    
1997年のアジア通貨危機でデフォルト寸前の状態にまで追い込まれた韓国は、IMFの経済介入を受け入れ、財閥の解体政策とともに、翌年、外国人による国内株式投資および債券投資への制限を撤廃し、外国人による敵対的M&Aを許可する。その結果、三星電子、現代自動車の外国人保有率は50%を超え、韓国有価証券取引市場全体での外国人保有率は2004年には42%に達した。韓国最大の銀行である国民銀行の筆頭株主は、Bank
of New Yorkである。  
つまり韓国マーケットの主要な大株主は非韓国である。三星も現代も自力で経営をコントロールする権利をすでに手放している。
また、GDPの80%以上を貿易に依存する韓国の最大の顧客はアメリカである。    
一方、50年前に時計の針を戻すと、この韓国の状況は2000年初頭のバブル崩壊後にアメリカからの関心を失うまでの間の日本の状況に似ている。
戦後の高度成長期に至る過程で、アメリカから総額18億ドルのガリオア・エロア資金援助を受けて復興開発が促進され、1ドル360円の固定相場制のもと輸出を伸ばし経済復興を遂げた。日本は地理的にアジア太平洋地域における拠点となり得たので、アメリカにとっては事実上の植民地として支配権を握ることが即ち太平洋経済圏での力を掌握することに結びついた。日本にとっては日米安保による軍事的な依存状態があったし、なによりアメリカに追従することが復興への近道だった。
 
そして社会学者エズラ・ヴォーゲルが著書『ジャパンアズナンバーワン』を出す頃、日本は少なくとも表面上は世界のトップに躍り出たかに見えた。
確かに日本の自動車や家電製品は売れたが、軍事的、経済的にアメリカに依存し、コントロールされる体質は変わらない。  
アメリカはすでに1兆ドルを超えるアメリカ国債を日銀に買わせている。これは輸出企業がアメリカにものを売り、稼いだドルの最終的な行き先であり、言い換えれば日本国民はこれだけの資産を現実的には返らないアメリカの信用商品に奉納金のような形で積み立て続けてきたとも言える。
     
正義の国としてしばしばプロモーションされるアメリカとは日本にとって何なのか。主権の確保と繁栄がカードの表と裏の関係にあるとき、いかなる選択肢をとるべきなのか。
移動が容易になり、万人が自己相似的にシステムに組み込まれているこの世界では誰もが無関係ではいられない。
これらの問いはアメリカが没落し、持つ者がますます富を集める現在の金融資本主義システムが終わらない限り付き纏い続けるだろう。


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