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Be first, Be smarter, Cheat

2012-01-26 16.47.48 HDR

東京に帰ってから二ヶ月が経った。
複数の事情が重なって春になるまでは日本にいなければならない。

私の友人であり同時にアメリカにおけるメンターでもあるチャドはPayPalのファウンダーの一人であるPeter Thielをクライアントに持つ投資会社のアナリストで、前歴はフォトグラファーとしてインターネット業界に関わった後ハーバードの大学院でファイナンスを学びVCやPrivate Equity業界に転職した。

彼がWestfieldのカフェで話してくれた感動的なアドバイスを忘れないように書いておこうと思う。

「ビジネスを成功させるには、次の3つの鉄則がある。
“Be first、Be smarter、Cheat”
カズは最初の2つは大丈夫だから、あとは最後だね。この辺は中国人がとてもうまい。僕も前の会社にいたときは会社には内緒でインターネットビジネスをやっていたんだ。

僕の祖母は一昔前にすごく成功した経営者で、Landonっていうファミリーネームは祖母の家系のものなんだけど、彼女が僕によく言っていた言葉がある。どんなものでも売れるんだって。

これは僕がフォトグラファーをやってたときに関わっていたwebサービスで、観光業者向けにハワイとかリゾート地の写真や動画を販売するサイトなんだけど、このハリネズミの動画ひどいだろ?これ僕が撮ったんだけど、本当にひどいよね。でも売れるんだ。

このサイトは最初の年は購入してくれたユーザーは0で、次の年は10人だった。その次の年は50人くらいだった。

もうやめようってことにもなってたんだけど、徐々に写真や動画の素材も増えてきて、5年目あたりで一気にユーザーが数千人に増えて売り上げもそれなりの規模になって、最近他の会社に売却したんだよ。どんなサービスも売れるまでには5年くらいは必ずかかる。

これ見て、HDの最高画質のだと100ドル以上もして誰が買うのかって思うよね。でもほら、これを見ると12人も買ってる。

こんな動画でも誰かにとっては重要で、買う人がいるんだよ。」

【Note】アメリカの銀行口座の手数料、維持費用に関するまとめ – Chase Busiess Select Checking Account 2012

 

銀行口座(Business Account)の開設が取得したTaxIDを使って意外にすんなりできそうなので、銀行でもらったパンフレットを読み様々な処理にかかる手数料に関して勉強した。

どうすればそれらのFeesを減らせるかという観点からまとめている。

 

ちなみに開設した支店はMarket Street沿いのChaseだが、ざっと調べた限り手数料ではBank Of Americaもほぼ変わらないという印象である。

またフランスでソシエテジェネラルの口座を使っていた経験から言えば、チェックの仕組みをもつ西欧の銀行の手数料システムはほぼ共通化されていると思われるのでアメリカ以外の国で口座を開設する際にも参考になるかもしれない。

ChaseはJPモルガン・チェイスアンドカンパニーの傘下にある銀行だが、JPモルガン・チェイス・バンクは2011年にバンク・オブ・アメリカを押さえ総資産で米国最大となった。

CitiBankという選択肢もあり、世界の多くの主要都市に支店があること、ドル送金が手軽にできるというメリットがあるが、

送金については銀行間取引よりもPayPalを経由する方が得策なので、米国内でのサービスを追求するならChaseということになるだろう。

 

以下まとめ。

 

1. 月々$15のService Fee

・口座内の平均金額を$7,500以上に保つ

・紐づいたクレジットカードで$1,000以上使う
・$50のqualifying checking account feeを払っている
・紐づいた個人口座がqualifiedである

– $7500以上常に入れておくのが確実

 

2. 超過引き落としが起こった場合のOverdraft Fees

・十分な金額を入れておく以外にない

もしこのFeeが発生すると、件数ごとに$34のInsufficient Funds Fee,$15のExtended Overdraft Feeなどそれなりに徴収されるので気をつけなければいかない

 

3.ATM,DEBITカード使用時に発生するFees

・基本的にChase以外のATM等を使うときに発生(ATM$2、Debit引き出し3%か$5の多い方)
・海外で引き出すと$5、通貨変換に3%

 

4.その他のFee
・預金される予定の取り引きが失敗(支払い側が残高不足など)した場合に$12
・チェックでの支払い取り消し処理$30
・200トランザクションを超えると1トランザクションごとに$0.4
・最初の$7500以外の追加デポジットに$1000あたり$1または$1.5

 

5. 送金
・米国の他の銀行からの転送入金は$15
・米国の他の銀行への転送は$30または$25
・他国の銀行とのやり取りは$45または$40

 

6. 特殊な処理
・口座への法的な措置への対応や寄付金など

 

7. ONLINE BANKING
・チェックごとに$14.99など

 

*Overdraft protection

Overdraft protectionを設定しておくと、チェックの預金額が足りないときに$10のプロテクション手数料が発生し、通常の預金から支払いを行ってくれる。
Chase.comのCustomer Centerから設定できる。

 

 

*Free Account Alerts

様々なFee発生が起こりうる場面でアラートしてくれる無料サービス。
Chase.com/freealertsで設定できる。

 

 

日本のメディアにはセレブリティという概念がない

今月はロサンゼルスにあるスタートアップハウスに籠ってプログラムを書いている。オンラインスポーツネットワークのスタートアップを経営するジョーダンが、親戚が所有する別荘を最大十名程度が寝泊まりしながら作業ができるように開放しているもので、オフィスはプールやバスケットボールのコートがある庭の一角を占めるガレージを改造した部屋から1分足らずで行き来出来る場所にある。(それにしてもアメリカのスタートアップ関係者は本当にガレージが好きである)ロサンゼルスといってもワーナーが近くにある、かなり外れたところにあるので車を使わない限りどこにも行くところがない。サンフランシスコでは毎晩のようにスタートアップ関連イベントかまたはサルサに通っていたので、生活はがらりと変わった。来月は再びサンフランシスコに戻る。

 

日本のメディアにはセレブリティという概念がないと思う。むしろ格差を隠蔽して総中流を演出するのが日本のメディアの目的の一つだという指摘もある。例えば国内でも有数の俳優が街中の庶民的な店で飯を食い、上手そうな演技をする。たとえ本当に上手くとも、そこに据えられた意味は、私と君達は一緒だというメッセージである。

2000年初頭のITバブルの頃、初めてメディアの中にセレブリティが登場する。つまり大衆とは異質な存在であることを公に主張する者が現れる。新種の存在が現れるときには必ず象徴というものが必要で、六本木ヒルズはその役割を果たした。

要するに日本におけるITバブルの終焉とは、メディアの中でのセレブリティという存在を改めて否定し、高度成長期の旧来の価値観に揺り戻す儀式となった。運動会で全員手をつないで一斉にゴールをするという話があったが(想像しただけで気分が悪くなりそうだ)、皆で一斉に幸せになるというコンセンサスに希望を持てないのは、それが既に嘘であることに皆気づいているからだろう。ヒルズがITバブルの頃の新種のセレブリティを象徴したように、世代交代による新陳代謝を繰り返しながらいつの時代にもメディアに現れ続け、スーパーマーケットのゴシップ紙に顔が並ぶハリウッドのセレブのような存在は、たとえ世界が狂い始めようともこの国には新しい成功がどこかにあるということの象徴としてあり続けている。

 

【Note】シリコンバレーで会社を設立するための基礎知識

「会社設立の基礎知識」

・取締役は株式保有者の人数に応じる。
3名以上保有の場合最低3名必要。
2名なら2名必要。
1名なら1名で可能。

・雇用者番号申請
個人でいうSocial Security Numberのような一社ごとに固有のナンバー
州に登録後、政府に登録
・法人登記簿コーポレートキットの作成
基本定款、株券発行、会社印など

・法人口座の開設
これには連邦番号FEINが必要
個人口座とは分ける

・ビジネスライセンスの取得
雇用者番号とは別。オフィスのある市で取得。費用は市により異なる

・ まず会社を設立してからVisa取得という手順になるのが通常の段取り。

 

「投資ビザ E2」

・十分な初期投資金
$100,000くらいあると良い
・オフィスを構えていること
・質の高い現実的なビジネスプラン

・申請方法
USCISにてステータス変更として申請

 

「H1-Bビザ」

特殊技能保持者。
在米企業での就業が決まっていることが条件。それ以外は大したことない。

申請時期は春、65000人まで。働けるのは取得後10月から。

 

「デラウェア州での設立」
・ネバダ州とよく比較される。
ネバダ州は取締役や役員のプロテクションが厚く、デラウェアは株主の権利保護に厚い。資金集めにはデラウェアが有利だと思われる。

・デラウェア州以外での利益以外には課税されない。

・毎年度特許経営税のみ課される

・設立まで最低1ヶ月はかかる

・アメリカに住む代理人が必要(設立エージェントに委託する場合サービスにインクルードされているのが普通)

・日本で法人として活動するには日本でも営業所登録をしなくてはならない。

・デラウェアで本社を登記した後で、日本に作るのは支社ではなく子会社の方がいいのは、決算処理の時に本社と支社を合わせて計算してから支社分を分けるという手間と費用がかかるから。

・日米租税条約により税金の二重取りはない

 

「デラウェア州で設立した会社の維持」
・年次報告
毎年3/1まで。$50支払い。遅延ペナルティあり

・州税(フランチャイズ税)
(1)授権資本株式数3000株以下なら$35。5000株以下なら$75。10000株以下なら$150。それ以上なら10000株増えるごとに$150追加。
または(2)株価×$350。
(1)(2)で安い方。

・州税(所得税)
デラウェア州内での事業活動に対し8.7%

最近またノマドという言葉を巡って白熱してきたようなので一言

May_Roma ‏@May_Roma

私がなぜ「若者は海外に出ろ」「若者はノマドになれ」と煽っている識者やジャーナリストに怒っているか?それは「夢を売る詐欺」だからです。人生を狂わせる人が大勢いるかもしれないからです。嘘をつかないこと、人を不幸にしないこと、は、最低限守らなければいけないことで、当たり前のことです。

ノマドという言葉は映画史におけるヌーヴェルヴァーグのようなもので、ワークスタイルのある種の傾向を分析しラベリングするためにとってつけた言葉であると同時に、批評の力学をゴダールやトリュフォーやリヴェットのような若い作家に享受するためのひとつのスターシステムのようなものだと思っている。May_Roma女史が「煽っている」という識者やジャーナリストはそのシステムにおける批評家としての役割を演じており、事実彼ら批評家が発信したそのコンテクストの中で安藤美冬やphaといったスタープレイヤーが輩出された。

キャビンアテンダントのドラマが流行った時代はその志望者が増えたというデータがあるが、当然キャビンアテンダントには誰もがなれる訳ではないので、何年もかけて目指した挙げ句素質がなかったために諦めて他の職業に就き、端から見て人生を狂わされたという人もいるかもしれない。そのドラマに対し、キャビンアテンダントという職業を世の中により魅力的に広く伝えた仕事、とするか、「夢を売る詐欺」とするかは個人の主観に依るところなのでどちらが正しいとも言えない。

May_Roma ‏@May_Roma

@hayamayuuそうです。大成功するのはごく少数で、凡人が大成功した人の真似をしても無理なんです。自分の身の丈や能力にあったことを、無理しない程度にやらないと、絶対に失敗します。

ただ、彼女の言う「失敗」と「大成功」が具体的に何を指しているのか分からないが、客観的にみて「失敗」したように見える当人の多くはそれを失敗だとは思っていないのではないだろうか。たしかに破産したり生きていく術を失ってしまった場合は失敗ということになるのかもしれないが、重要なのは失敗しないことではなくて、失敗するリスクを勘案してそうしているか、である。

社会に必要なもののうち情報化できるものの割合が多くなったので、仕事が個人に切り分けられていく傾向は不可避である。議論すべきなのはこの傾向を止めるか促すかではなく、それが自然な歴史の流れであるという前提の基、どのようにリトライ可能な社会を実現または維持していくか、ということだ。大局的な「成功」の定義はこの世代の人たちのそれから変わりつつあるので、たとえ識者やジャーナリストが勝手な成功イメージを添えて紹介していても新しい世代には知ったことではない。彼らは彼らのイメージを勝手に具体化しようとするだろう。

 

ノマド的な働き方に必要なのは、才能ではなく技能である。だから凡人であろうと天才であろうと問題ではない。むしろ、”誰でも生身の状態では凡人である”という事実を認識した上で、訓練を積み重ねていく以外にはない。

松井博/Hiroshi Matsui ‏@Matsuhiro

ノマドというと「セルフランディング」っていうけど、何より大事なのは高いスキル。それがないとセルフブランディングなんていくらしても無駄。

ノマド論にみられる最大の誤解

最近ではノマドやノマドワークという言葉が一人歩きしながらテレビなどでも話題にされるらしいが、多くの人が誤解しているのは、この言葉が「遊牧民」という言葉から派生しているというものである。
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そもそもの問題点として日本人はたとえ高学歴層であっても、米国の上位大学で義務的に課される習慣つまり古典的なテキストをあたる習慣がある人種はかなり希少なので、文脈から切り離された言葉の印象を基点とした議論に陥りやすい傾向があると思われる。
経済学者の池田信夫氏も度々ツイッター等で経済学用語の誤用に怒りを示しているが、抽象概念は歴史を背負って存在する、言葉が文字通り進化したものである以上、その言葉を定義づけるテキストを読まなければ本当の意味で正確に理解することは難しい。
そして議論は言葉を通じてなされるのであるから、特に抽象度の高い概念を用いる程、そもそもの言葉の定義がずれていてはまともな議論になり得ない。
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まずノマドという言葉を議論の俎上に乗せる前に、これが「超ノマド」という概念に由来していることを理解している人がどれだけいるのだろうか。
超ノマドとはフランスの経済学者、思想家でありまた初代欧州復興開発銀行総裁を努めたジャック・アタリの著作『21世紀の歴史』で記述される、情報化社会以降の現代において携帯可能なデバイス(ノマドオブジェ)と専門的な技能を駆使して土地に依存しないフロー型の生活を行う者のことである。
超と言うからには超でない普通のノマドという概念からの派生であるが、この場合のノマドも遊牧民を指しているのではなく、情報化社会以前の社会で移動を伴う生活を行っていた人種のことを指し、これは12世紀に会計技術の発明によって金融業が栄えたジェノバをはじめとする「中心都市」とその中心都市を巡っての大局的な人の移動という文脈とともに説明される概念であり、当たり前だが広辞苑で引いても同じものは出てこない。
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重要なことはデジタル技術の発達により、我々が社会の中で生み出すもののうち情報化できるものの範囲が広がったので、情報を効率よく伝達できる移動性のツールを伴って「土地という制約からより自由になる人種」が増えるということである。
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従って、ノマドという言葉を単純に遊牧民的なイメージとして語るのは、言ってみれば「オタク」を〜オタクのオタクと同一概念で語ることと同様、言葉の進化のコンテクストを無視した行為であると言えるだろう。

書評『The Lean Startup』

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あなたのプロダクトにある問題が起きていることに、あなたは気づく。そこであなたはこう考える。

Can we built a solution for that problem?

答えはYesだ。さて、この問題解決に着手しよう。。。

知っての通り起業家のためのバイブルとして各国で圧倒的に支持される本書は日本でも邦訳が出るらしいが原著を先々月頃から読んでいたので、一足先に書評を書いておこうと思う。と、書ければベストだったのだがもう出ているらしい。
原著で読む場合はAudible.comで著者Eric Ries本人が読んでいる朗読が手に入るのでこちらもお勧め。

要旨としてはスタートアップビジネスにとって、早めにMinimum Viable Productと呼ばれる最低限の必要機能を備えたプロトタイプを世に出し、サービスの作り手の想像の範疇で試行錯誤するのでなくユーザーが真に望むサービスへの改良をフィードバックループの中から探れというもの。Lean methodからすれば冒頭に書いた問題解決のプロセスからは3つの問いが抜けている。

1.Do consumers recognize that they have the problem you are trying to solve?
2.If there was a solution,would they buy it?
3.Would they buy it from us?
4.Can we built a solution for that problem?

つまり限りあるリソースの中で着手する前に顧客が望んでいるか。
言うはたやすいが、一度でもプロダクトを世に問わせたことのある人であれば、行うに難い場面をいくらか想像できるのではないか。可愛い我が子のデビューはスティーブジョブズのプレゼンテーションのように完全に整えられた状態で飾らせたいと思うのが親の常であるだろうし、本書にも書かれているが皮肉なことにユーザー数も収益も少しあるより”ゼロ”の方が人は可能性を感じるので、作り手含む関係者各位の期待を裏切るまいという心理が働けば完成品への拘りが尚更生まれる。
膨大なコストをかけて完成させたプロダクトや新機能が蓋を開けてみたらユーザーの望むものではなかったという著者のIMVUでの苦い経験(実際には投資家や従業員からのプレッシャーを考えれば相当な苦難だったに違いない)から語られる教訓には相応の説得力が込められている。

アントレプレナーが直面する各フェーズに沿って本書は進行していく。米国一のオンラインシューズストアでAmazonに好条件で買収されたZaposやHP、Facebook、Dropboxなどシリコンバレーのスター企業がフレームワークのテストケースとして次々と挙げられ、Zaposについてはトニー・シェイ『ザッポス伝説』がこれまた面白いのだが、アメリカ最大のオンラインシューズストアもはじめは小さな実験からスタートしている。オンラインで靴を買う需要が本当にあるのか試すために、ネットでオーダーが入ると靴屋から商品を全額で買い取り郵送で送るという地道な作業を繰り返した。
本書ではこの過程を著者が説くフレームワークの一部を当てはめ、それがどうプロダクト改善のためのプロセスに有用だったかを解説している。

本書の何が新しいのか。全て想像できる範囲内にあるという意味においては正直これといって新しいことは何もない。ただあまりに有名になった数々の成功神話と固定観念と、そして創造者であるがゆえに持つ衝動から離れ、泥臭くも賢明な創造の舞台に上がる前の手人文字としてこれ以上のものはないだろう。NIKEのキャッチコピー”Just Do It”式のギャンブルでなく再現可能な科学として抽象化できる教訓はこれが限度ではないか。私たちが知っている美しいプロダクトはそのプロダクト程美しくないプロセスで生まれている。

個の時代は人類にとっての摂理

摂理とは元々キリスト教の概念である。Providence(神意)に相当し、自然発生的に生まれ均衡の保たれたシステムを神の御業に例えて使われる。
アタリも指摘するように、人類が個人の自由の獲得へと奔走してきたことは歴史が示している。まるで個の自由がより尊重されたシステムこそエントロピーが増大した自然状態に近づくかのようにである。
このことから人間というものは生来自由を求める生き物であると仮定するならば、より個として自由に生きることが可能な時代になるにつれ、それを実践する人々の割合が増えるのは必然である。産業が複雑化すると同時に、情報で切り分けられた仕事はデジタルネットワーク上で転送可能になり、つまりこの高度情報化時代において土地への依存から土地に依存しないネットワークへの依存に変容したことが空間という一つの制約を我々から取り除きつつあるので、我々は必然的に制約の少ない方向へと歩んでいく。
個の自由とは何か。それは行動の選択肢がより幅広く、依存の少ない状態と言える。空間的な制約がなければどこにいるかを選択することができるし、時間的な制約がなければいつ何をするのかを選択できる。組織のコンプライアンスを背負わなければ、言論の制約を受けない。また給与所得による金銭獲得は給与の払い手、つまり多くの場合所属する企業からのみ生きるための資金を委ねている状態となり、ライフラインを一つの存在に握られている高リスクな依存状態と言える。子供であれば親が同等の存在である。農耕時代は文字通り土地に依存し、工業化時代は主に固定された設備に依存した。土地に依存せず携帯可能な情報デバイスを必須のツールとする現代は狩猟時代に近い。必須であるが依存しないのは道具は現地でも調達できるためだ。ソフトウェアやデータはクラウド上から引き出せる。

なぜ人々は制約の少ない低依存状態を指向するのだろうか。
多くの地上の動物は卵や胎内で生まれ、巣や親の近くで餌を与えらながら育つ。やがて自分の手足で移動できる身体能力を獲得し、自ら獲物を獲る方法を身につける。そして個として、時として他者と協力したり争いながら生きていく。こうした性質は我々が本能的に備えていることなのかもしれない。

書評 『モチベーション3.0』ダニエル・ピンク

内発的動機づけは外発的動機づけに勝る。この本のテーマであるが、これだけ聞くと当たり前のように思える。しかし、一言で伝わる主張のためにわざわざ一冊の本は書かれない。

以前のエントリーで我々事業主がもつコスト感覚について書いた。
自らの行動コストと利益を逐一天秤にかけ、合理的で最善の行動をとろうとする習慣的感覚である。こうした行動の枠組みは従来の経済学では前提条件として与えられるものであった。つまり、人々は常に経済的利益を最大化する行動を選択するという前提に基づいて理論が組み立てられてきた。ブルーノ・フライが言うところのホモ・エコノミクスー経済人種ーである。

本書が引き合いに出す、報酬と処罰といった外発的動機によってモチベーションを維持する旧来のオペレーションシステム、モチベーション2.0はこうした発想に基づいている。

わたしはお守りのようなフレーズを見つけて試験に適用したおかげで、ロースクールを何とか乗り切れた。「完全に情報が公開され、処理コストが低価格の場合、当事者は、富を最大化する結果を目指して取り引きする」
それからおよそ10年後、わたしが多額の授業料を払い、懸命に学んだ内容の大半に疑問を投げかけざるをえないような、奇妙な出来事が起こった。2002年、ノーベル財団は、ノーベル経済学賞を経済学者でない人物に授けた。主な受賞理由は、人は必ずしも自己の利益を最大化することを目的に取り引きしない場合も多い、という事実を明らかにした功績だった。

その人物とはアメリカの心理学者、ダニエル・カーネマンである。カーネマンは『Thinking, Fast and slow』の著者で人間の行動の多くは無意識的判断(システム1)に寄り、意識的判断(システム2)は人間の行動を決める要因の一面に過ぎないとした。
この主張はシステム2、即ち合理的な思考によって行動することを前提とした従来の経済学に対しパラダイムシフトの可能性を示唆する程のインパクトをもっていた。経済学の常識が畑違いの人物によって覆されるのは痛快であり皮肉だが、同様なことはソロスからも以前より指摘されており、価格の均衡が合理的に決定されるという逸話に対しては現実に大きな資金を動かす金融の実践者程疑問を持っていたのではないだろうか。従来の経済学の理論が理想的な条件を基に考察されてきたのは多くの人が指摘する通りである。

さて、本書が主張する内発的動機付けのもつ優位性にまつわるフレームワークは他者をマネジメントする際に特に直接的に作用し得るし、実際に多くがそういった視点で書かれている。

21世紀は、「優れたマネジメント」など求めていない。マネジメントするのではなく、子供の頃にはあった人間の先天的な能力、すなわち「自己決定」の復活が必要なのである。

同時に、人は誰でも自らをマネジメントしているから置かれた環境によって野心の火種を絶やさないために回避すべき、または改善すべきチェック項目を持っていたい。本書はその助けとなる。

垂れ流し続けている感覚

事業主とサラリーマンの決定的な違いはコスト感覚だろう。
フリーランスや経営者などの事業主は利益を計上するまで収入がないので労働密度を上げたり一切の無駄な時間を減らすことにインセンティブが働くのに対し、解雇されない限り毎月一定以上の収入が入ってくるサラリーマンには時間あたりの労働量を下げた方が費用対効果が高いので、同じ給与額であればなるべく働かない方が得というインセンティブが生まれる。
少なくとも我々のようにただ生きて時間を消費しているだけで金銭的コストという血を垂れ流し続けているといった感覚を皮膚感覚的に感じている人は給与所得者ではかなり希少ではないだろうか。生きている以上生活コストは刻一刻と発生し続け、その負の生産量と労働による正の生産量を逐一微分的に秤にかける思考回路が出来上がる。そしてあらゆるものごとをコストとリターンの枠組みで捉えるようになる。その時、言わば生産財は時間のみといった我々のような職業では特にコストの把握と時間感覚の相関が密になってくる。
血量が尽きることは何らかの助けがない限り文字通り死を意味するので、サバイバルである。私が利用しているオフィス施設の中で日毎に行われる様々な企業イベントでいつも受付に過剰な数のスタッフがたむろっているのを見るにつけ、正直手から銀砂が滑り落ちていくのを見るかのような惜しさやもどかしさを感じてしまうのだがこういう感覚を伝えるのはたぶん難しい。

戦略的な仕事選び

いきなり話は変わって本の読み方には2通りある。
一つは手にとった本を作者の意図に従いはじめから行を追うように読むやり方。もう一つは自分の予めもっていたテーマや問いに従ってその答えを探すように読むやり方。前者は受動的な読書と呼ばれ、後者は能動的な読書と呼ばれる。
こんなことは古今東西の数多の書物に書かれているので、このブログの読者なら今さら何をか言わんやというところだろう。結論を言えば目標達成のための戦略的な仕事選びに欠かせないのは後者のような発想だ。達成によって今必要なものを埋められるような仕事をその時々で選んでいくのである。
信用を前提とした仕事には社会的責任が付きまとう。自分を鍛えるためにこれを利用しない手はない。絶対に達成しなければならないことと自分が求めていることが一致した時モチベーションは一段と高まり、また達成することで得られるスキルと成功体験は新しい高みに登るための土壌になる。

Money is Time 2

<< Money is Time 1

人類は歴史的に、食うために働いていた時代に始まり社会システムの維持とモノを買うために働く時代(大量消費と記号消費の時代)を経ている。これからは余計な消費を減らしつつ、働かないために働く時代だ。ここで言う働くとはマネー、つまり時間を稼ぐことを目的とした行為である。金を稼ぐことが自己目的化すると働くことはゲームになるが、いずれそうした活動はゲーム以外の何ものでもなくなる。

人はまだ金銭的価値のついていないこと、例えば美しいものを生み出したり、愛する子供に愛情を注ぐことにこそ限られた時間を消費すべきであると気づき、働くことが善であるという価値観は薄れていく。このブログにしても本エントリーを書くことによって1円の利益も得ていない。そういう意味で、何世紀も前に中心都市の舞台として栄えたヨーロッパ諸国はたとえ金融危機に陥り破綻寸前になろうとも価値観の形成という点において成熟度が高いと言えるのもしれない。それが私が欧州に惹かれる理由だ。

 

システムによる解決は暮らしにとってなくてはならないエネルギーと食糧生産のさらなる効率化や、BIのような社会システムの整備を待たなければならない。今はある分野での卓越した専門性や分身となって働いてくれる何か(人、ロボット、コンピュータープログラム、動植物など)、あるいはスペインの街中で演奏する人達のもつ芸のような無形の資産を築くことが最良の策となる。